JICA日系社会シニアボランティア清水邦俊氏着任のお知らせ
segunda-feira, 10 de setembro de 2018

着任の御挨拶

初めまして。JICA日系社会シニアボランティアの清水邦俊(しみず くにとし)と申します。2018年7月25日より約2年間、本研究所へ学芸員として配属になりました。職種は学芸員ですが、手書きの日本語文字資料の整理を行うアーキビストです。私の生い立ちと研究テーマであるアーカイブズ学、アーカイブズ、アーキビストについて説明することで、着任の挨拶としたいと思います。

私は、千葉県佐倉市で生まれ育ちました。長嶋茂雄氏の出身地といえばピンとくる方も多いと思います。佐倉は、江戸時代は佐倉藩の城があり、幕末には同藩がオランダ医学を諸藩に先駆けて奨励したことにより設立された順天堂病院、明治から終戦までは佐倉城址が陸軍用地となり歩兵連隊が駐屯するなど、藩政の中心地・オランダ医学先駆の地、そして陸軍連隊の地という歴史がある街です。このような居住環境から、小学生の時から歴史、特に日本史が好きで、大学は國學院大學へ進学しました。大学では日本近世史を専攻し、卒業後は千葉県文書館という県の歴史資料保存施設で、主に江戸時代や明治時代の古文書の整理に関わってきました。一方で卒業後も自身の研究テーマが見いだせず、漠然とした年月を過ごしていましたが、次第に興味を持っていったのがアーカイブズ学でした。

アーカイブズ(archives)って何ですか、という質問をよく受けます。英語の辞書では、文字や映像等の資料そのものや、これらを記録した資料を保存する施設と二つの意味があります。最近ではウェブ上で使用することが多く、上記の意味以外の解釈も発生し混用の傾向にあるため、アーカイブズ学を研究している私に、前述の質問を投げかけてくるように思えます。私が考える三つ目の意味は、資料を歴史資料にすることです。紙等の媒体を整理し、利活用できる体制を整え、後世に伝えることで資料から歴史資料にすることを言います。少し詳しく説明しますと、書類や帳簿・手紙・写真・映像といった資料は、個人や団体により何らかの意図や目的・活動のもとに作成されます。このような資料には、人々の日常やさまざまな出来事、活動の計画・経緯・結果等が記されています。作成当時は、頻繁に利用されていた資料も、その後活動計画が遂行され終了したら、利用頻度も少なくなります。そのような時に、資料を整理・保存し、利活用の体制を整えることで、活動の証拠を記した歴史資料となります。そして、そこには活動に関わった人々の生きた証が、歴史に記憶されたとも言えます。したがって、資料を整理し、利活用が可能な体制を整え、適切な保存措置を施して、はじめて歴史資料となるわけです。これがアーカイブズの三つ目の意味であり、これらの作業を行う人をアーキビスト(archivist)、そしてアーカイブズを科学的に探求する学問がアーカイブズ学であるといえます。

ところで、ブラジルにおける日本人移民の歴史学研究が少ない理由の一つとして、資料、特に手書きの日本語文字資料が整理されていないことが挙げられます。日本人移民と言っても、国の事業としての移住の他に、個人渡航、キリスト教団体や移植民学校・移民会社等の民間組織による移住と様々です。またブラジルにも移民組織や植民地の団体等の受け入れ側の組織がありました。当然、送受両者の個人や団体で様々な資料が発生します。その資料の種類は、渡伯に際しての書類や個人の旅券、渡伯後の活動を記した日記、個人と受け入れ団体間のやりとり、日本にいる家族・親類・友人との往復書簡等、枚挙にいとまがありません。資料には、これまでの移民史でも知られていない多くの出来事や活動等が書かれています。これらをアーカイブズにすることが肝要です。これにより、歴史研究のみならず、先祖や家族の歴史を辿る資料、新たな活動を創造するために過去の活動を手掛かりに用いる、または記念誌の編さん等、様々なことに利用できます。すなわち、アーカイブズは、あらゆることの基幹となります。

本研究所では、創立当初から移民に関する文字資料の収集を行っています。しかし現在は、これらの資料が整理されていない状態にあります。私が赴任している約2年間でこれらの収集資料をアーカイブズとし、ブラジルの大地に生きた日本人移民・日系人の生きた証として、100年・200年先の未来に伝えていけるようにしたいと思います。


サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros