後記
後記
terça-feira, 20 de maio de 2014

 この書の編纂に当って一と役を負わされたにもかかわらず、何等なすところなく、主として、桑原忠夫氏と輪湖俊午郎氏の執筆された原稿に眼を通させて頂いたに過ぎない。
 また印刷は、パウリスタ印刷株式会社へ依頼した関係上、出版に経験深い河野寛氏に総ての点で少なからぬ配慮を煩わすこととなった。従って、殆ど役目を果たしていない私が、後記を綴るのは当を得ないが本書が印刷に附される以前、その原稿を一読した感想を述べて見たい。
 凡そ、一つの書を記述するに先立って最も苦心するのは資料の蒐集である。もしそれが故人の伝記の場合は猶更然りで、殊に旧い史的資料を手に入れるには、第三者の想像を許さない困難がある。
 本書の出版が、日本移民五十年祭委員会によって企画採決されるや直ちに着手されたので、極く限られた期間に原稿を書き上げられた桑原、輪湖両氏が多大の努力を傾倒されたことはいうまでもなく、茲に深甚の謝意を表す次第である。
 これに収録されたのは、コロニアの歴史に顕著の功績と足跡を残した物故者六十四名の小伝であって、その中の或る人はブラジルに骨を埋め、また或る人は日本で逝かれたが、何れもコロニアにとって忘れ得ぬ人々である。
 資料集めの便宜のため日本関係は桑原忠夫氏に、ブラジル関係は輪湖俊午郎氏に執筆をお願いしたが両氏の高い風格と雄渾精緻な文章によって六十四名の人物が種々の面から遺憾なく描き出されている。これ等の人物伝は各々コロニア半世紀の歩みを物語るものであり、総合的にはコロニアの史的記念塔である。また見方によっては日系コロニアのバンデイラ史(先駆開拓史)とも云える。
 しかし多くのバンデイランテスには表面に名を成さずして蔭の努力に終始した者あるために、ブラジルがかくも広大無辺の国土を確保し建国の基礎の築かれたことを想起すると共に、日系コロニアの無名バンデイランテスの苦闘を偲び、感謝の念を禁じ得ない。

  一九五八年六月

佐藤常蔵


サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros