2018年度通常総会のご報告
quinta-feira, 19 de abril de 2018

2018年度通常総会が3月27日、当研究所にて開催されました。総会の席上、2017年度事業報告および2018年度事業計画案が発表されましたので、ここでご紹介いたします。


2017年度事業報告書

1. 創立50周年記念事業
本年中、以下のような進展があった。

1. ブラジル社会における日系コミュニティの活動状況と存在の影響調査
ブラジル国内の日系団体約430のうち350ヵ所のフィールド調査を完了した。日系社会の現状を把握するため、より精密な情報収集に努め、新たな日系社会像や日系人の特徴や動向を説明しうる資料を集めることができた。また、国際交流基金主催の南米日本語教育シンポジウム(8月26日)にて、中間報告として日系社会の現状について発表を行なった。

2. 人文研50年史・年表の刊行
・日本語部門
前年より引き続き50年史作成に向けた資料調査を行なうと共に関係者へのインタビューを行ない、戦後の活動をまとめた。全体の構成を、「前史(人文研設立前)」、「本史(人文研設立~2018年3月)」、「財務面から見た歴史」、と大きく3つに分けた。担当は前史(資料調査、記述:長尾)、本史(資料調査:高山、長尾、記述:長尾)、財務面から見た歴史(資料調査、記述:松尾ネウザ)として、2017年末に大まかな記述を終えた。目標の2018年5月刊行は達成できる見通しとなった。
・ポルトガル語部門
年次総会議事録や事業活動報告書などポルトガル語の資料を調査し、2015年までの歴史を時系列に沿って記述した。

2. 若手研究者育成事業
ブラジル側枠は2016年9月よりAlfredo Jorge Hesse Garcia Neto氏が「ポルトガル語資料に見る人文研の50年史」をテーマに研究活動を継続させた。また、日本側枠では2016年10月より柴田寛之氏(NY市立大学大学院センター社会学研究科)が「移民のトランスナショナルの長期的変動 ―日系ブラジル人の100年の歴史制度分析―」のテーマで研究を8月末まで行ない、11月より小谷真千代氏(神戸大学人文学研究科)が「下請労働市場の不均等発展に関する地理学的研究―日系ブラジル人労働者の出稼ぎを中心に―」をテーマに研究を行なっている。そして、2009年より実施してきた奨学生制度を、当団体50周年記念事業として立ち上げた研究員制度へと引き継ぐ形を取ることが決定され、これまで行なわれてきた学部生を対象とした奨学生制度は今年度より廃止となった。

また、奨学生制度の第3期報告書が4月に刊行された。内容は以下の通り。
  “Ocaso onde nasce o sol: o Bakumatsu (1853-1869) e modelo civilizatório imperialista na obra « Kinsei Shiriaku »” (William Vieira Antonio)
  “Tradição e modernidade: o kimono e a identidade no contexto da imigração japonesa no Brasil” (Priscila Miki Satake)

現在この制度はサンヨー牧場、宮坂国人財団、山本勝造財団からの支援により運営されている。

3. 客員研究員・研究生の受入れ
2月より白石香織氏(上智大学博士前期課程、UNICAMPへ留学)を客員研究生として受け入れた。研究テーマは「戦前日本移民のホスト国の人びととの接触について」。2018年2月に帰国した。また、10月23日より18年1月15日までの期間、関屋弥生氏(大阪大学博士後期課程)を客員研究生として受け入れた。研究テーマは「ブラジル日系移民が伝えた能楽~「伯謡会」の活動を中心に~」。

4. 出版事業
“Intercâmbio Brasil-Japão em perspectiva”
これは2016年2月に開催された日伯修好120周年記念事業セミナーの報告書である。出版にかかる費用は在サンパウロ日本総領事館の助成金より支出された。

人文研研究叢書第10号「ブラジル日系美術史」ポルトガル語版
16年6月に刊行された同書(田中慎二著)をポルトガル語に翻訳し出版する計画がなされ、まず翻訳が3名(田中詩穂氏、富松房子氏、松阪健児氏)によって分担された。このための費用として山本勝造財団よりR$18.000,00の助成を頂いた。翻訳は7月に完成し、その後、吉田エルネスト氏(エザーミ誌編集者)へ編集作業を依頼し、年末までに完了した。
また出版方法に関して、ポルトガル語の出版物であること、またブラジル美術界において日系人の活躍が広く知られていること、という二点を考慮した上で、一般の流通経路に載せられるような仕方を取るのはどうかという提案がなされ、Hucitec社(『ブラジル日本移民80年史』ポルトガル語版 “Uma Epopéia Moderna – 80 anos da imigração Japonesa no Brasil” も出版)に依頼することになった。
なお、この編集作業および出版にかかる支出のためにR$ 30.980,00の助成を宮坂国人財団より頂くことになった。

人文研研究叢書第11号予定「アンドウ・ゼンパチ(仮題)」
理事の古杉氏が進めているこの著作は、初稿が年内に完成し刊行へ向けての準備が進められている。

人文研紀要『人文研』第8号
2009年に刊行された後中断していた研究所紀要『人文研』の第8号を発刊する提案がなされ、編集委員会が発足された。委員には本山理事長(委員長)、古杉理事、長尾JICAボランティアが選出された。当研究所の紀要では初の試みとして公募の形が取られ、8月サイト上にて募集要項が発表。また人文研関係者や日本の関連学会などにも通知を行なった。日本語3本、ポルトガル語3本、計6本の論稿が掲載予定である。

5. 企画・イベント
本年度開催された各種イベントは以下の通り。

1.  研究例会
2月「三島由紀夫のブラジル体験」杉山欣也氏(金沢大学)
10月「日系バイリンガルの育て方」松田真希子氏(金沢大学)

2. コロニア今昔物語
1月 第一部「水野龍展と私-その上を流れた時間と人々」大浦文雄氏(スザノ福博村会顧問)
  第二部「カフエーパウリスタに魅せられて」若林あかね氏(映像作家)

3. 勉強会
4月 「強いられたトランスナショナリズム: 在日ブラジル人第2世代の進路選択をめぐって」柴田寛之氏(専任研究員)
5月 ”Jinmonken: Um olhar para o passado e período marcantes” アルフレッド・ネット氏(専任研究員)
7月 コロニア演劇「トマテとコンピューター」(脚本:前山隆)ビデオ上映
8月「「伯剌西爾行移民名簿」を用いた地図化の試み ―高知県渡航許可移民を事例に―」村中大樹氏(JICA青年ボランティア)
9月「ブラジル日系知識人層の活動史 -サンパウロ人文科学研究所の成立過程とその諸活動に関する一考察-」長尾直洋氏(JICA青年ボランティア)
11月「ブラジルにおける戦後日本移民研究の再検討 ― 引揚者の再移住に注目して―」白石香織氏(客員研究生、上智大学)
12月「ブラジル日系社会における能楽の活動実態とその特色」関屋弥生氏(客員研究生、大阪大学)

6. 資料の分類・整理
今年度下記の方々より図書の寄贈があった。
高橋ジョー、本山省三、矢野京子、早田慎一郎。

また故宮尾進氏遺族より宮尾氏所有の資料の寄贈を受けた(北島研三の日記、清水宗二郎の手帳、宮尾日記類など)。田中慎二氏よりは河合武夫資料(主に書翰)を寄贈していただいた。

こうした手書き資料の整理のため、本年中アーカイブの専門家をJICAシニアボランティアとして要請をし、既に2018年7月派遣決定の通知を受け取っている。

所蔵資料の鈴木南樹日記(一巻)の文字起こし作業も行なった。

一方、11月には重複図書(移民関連)を沖縄県立図書館へ寄贈した(13箱)。

また元理事田中慎二氏が自費出版された画文集『アンデスの風』の寄贈を受けた。100部と発行部数が少ない中、30部を頂き、一部は理事会や会員に頒布し、残りは一般の方々に頒布しその売上金は人文研への寄付として頂くことになった。

7. 日本支部の活動
日本支部では以下の研究会が開催された。
  5月21日『移民史からみえる近代日本人/日系人と「世界」』根川幸男氏(国際日本文化研究センター機関研究員)於大阪大学中ノ島センター
また、11月には小谷真千代氏(既出)を第二期研究生として派遣した。

8. 脇坂勝則顧問死去
当研究所元理事長、現顧問として会の創立以来人文研の活動の発展に大きく寄与してこられた脇坂勝則氏が11月15日に逝去された。


2018年度事業計画書

1. 創立50周年記念事業
1. ブラジル社会における日系コミュニティの活動状況と存在の影響調査
2018年4月中にすべてのフィールドワークを終了し、調査結果をシステムに入力、分析を行ない、7月を目途に大まかな統計結果を出す予定。9月末までに、データベースを利用した文協マップや文協リストなどをサイト上に公開する。その後は当調査結果をもとに、より踏み込んだ調査や分析作業につなげていく意向。

2. 人文研50年史・年表の刊行
日本語部門
題名を「人文研史-半世紀の歩み-」として、2018年5月刊行を予定しており、記述部分の他、表、写真などの挿入も加えて出版社と交渉を進めている。300部の出版を予定している。
ポルトガル語部門
人文研の関係者や関わりがあった研究者などにインタビューを行ない、論考を完成させる。刊行予定は2018年9月。

2.若手研究者育成事業
研究員制度
日本側 10月末まで 支部派遣研究生 小谷真千代 神戸大学博士後期課程
  研究テーマ 下請労働市場の不均等発展に関する地理学的研究―日系ブラジル人労働者の出稼ぎを中心に―

ブラジル側 5月まで Alfredo J. H. Garcia Neto サンパウロ大学修士課程
  研究テーマ ポルトガル語資料に見る人文研の50年史
 6月より 世良杏奈 インディアナ大学教育学部博士課程
  研究テーマ 移民としての日系ブラジル子弟教育について

3. 客員研究員・研究生の受入れ 
随時、外部よりの研究者を受入れ、研究活動の支援を行なっていく。

4. 出版事業
2016年8月に出版された“A Presença Japonesa na América Latina”、および2017年10月に出版された “Intercâmbio Brasil-Japão em perspectiva” 両報告書の出版記念会が2月2日JH(ジャパンハウス)にて開催された。在サンパウロ総領事館との共催、JHの協力の下、100名以上の参加を得た。

人文研研究叢書
 第10号 ブラジル日系美術史(ポ語翻訳)上半期出版予定
 第11号予定 アンドウ・ゼンパチ 古杉征己  年内完成予定
 第12号予定 ブラジル日本語教育史 モラレス松原礼子、末永サンドラ輝美共著
紀要第8号(編集作業、刊行は2018年中旬予定)

5. 資・史料収集と整理
逐次刊行物の整理(必要に応じては修復・再製本)
7月よりJICAシニアボランティア清水邦俊氏をお迎えし、手書き資料の整理に着手して頂く予定である。

6. 企画・イベント
本年度も当所主催による下記の発表会を随時実施する。

1) 研究例会
研究者によるアカデミックな研究や調査の成果を一般に発表する趣旨による。3月に「言語政策理論から考える日系人のことばのデザイン」(福島青史氏、国際交流基金)と「日本で外国籍の親と暮らす子どもの高校在学率について――2010年国勢調査データを用いた国籍間・都道府県間の比較――」(鍛治致氏、大阪成蹊大学)を開催。

2) 今昔物語
従来あまり採りあげてこなかった分野における移民の営為を発掘して発表するもの。1月に「光を放った男達-ブラジル工業移住者の足跡―」(小山昭朗氏、元ブラジル工業移住者協会会長)を開催。

3) 勉強会
若手研究生の研究テーマを中心に非公開で討論を行なう趣旨による。

7. JICAボランティア
2016年7月より当研究所にて活動してくださっている長尾直洋氏、村中大樹氏の二名は、この6月に任期を全うし帰国される予定である。

8. 日本支部の活動
研究会、そして講演会の開催を計画している。また本部への研究者派遣にも従事する。


サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros